「フレイル」(虚弱、老衰状態の意)という言葉を耳にしたことはありますか。聞いたことはあるけど「それって何?」と首を傾げる方は、まだ多いかも……。フレイルの認知と予防は、街の薬局が担う「健康サポート機能」の一つです。岡山県で15店舗を展開するマスカット薬局(本社:岡山市)倉敷店に勤務する薬剤師の今城慶子さんは、2021年秋から、フレイル予防のための地域講演活動に注力しています。そんなフレイルの“伝道師”に、活動の一端をうかがいました。
今回は、薬剤師の今城さんにお話をお伺いしました。
―厚生労働省が2017年度に策定した「患者のための薬局ビジョン」には、かかりつけの薬局・薬剤師が、処方箋調剤にとどまらず、地域住民の主体的な健康の維持・増進を支援することが盛り込まれています。
今城 倉敷店で2021年10月からスタートしたフレイル予防のための「健康教室」は、薬局が果たすべき健康サポート機能の一環として始めました。地域住民の介護・健康などの窓口となる地域包括支援センターからの依頼を受け、各地域のサロンに赴く形で実施しています。
健康教室では、「フレイル」とはそもそも何かを説明することでご参加いただいた方に理解を深めて頂きます。
―フレイルは加齢による「心身の老い・衰え」です。講演では、それをどのように説明されていますか。
今城 フレイル予防の重要性は自身のフレイル度を知ることで理解できます。そのため講演では、東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授らが考案した筋肉量が把握できる「指輪っかテスト」とフレイルの度合いが分かる「イレブンチェック」という簡単なセルフチェックを行っていただき、まずは自身のフレイル度を自覚していただくところから始めています。その上で、フレイル対策の3つの柱である「栄養」「運動」「社会参加」の大切さ、必要性を訴えています。
※チェックシートより一部抜粋。シートを基に自身の健康状態を把握していただきます。
―ひとくちにフレイルといっても多種多様です。
今城 フレイルは大別すると、「身体的フレイル」のほか、「精神・心理的フレイル」「社会的フレイル」の3つです。講演ではどこに焦点を当てればいいのか、試行錯誤を繰り返しながら、先ほどのようなお話内容にしています。
―フレイルの認知度は高まっているのでしょうか。
今城 講演を通じて感じたのは、言葉を聞いたことがない人が半数以上、聞いたことはある人でも意味が分からない方が少なくないということです。ただ講演後は、「フレイルの意味がよく分かった」「フレイルの概念がとても興味深かった」などの声をいただき、薬局薬剤師として、さらにフレイルの認知度を上げるためのきっかけづくりとして、講演活動を継続する意味を痛感しています。
お話の中でチェックシートを活用していく際、一人一人確認を行いながら順に進めていきます。
―フレイルは、新型コロナウイルス感染症との相関性も指摘されています。
今城 それでなくても高齢者は外出機会が減少しがちです。そこに新型コロナウイルス感染症の流行が追い討ちをかけ、高齢者の外出機会が激減しました。フレイルの要因となる「運動」不足と「社会参加」の低下です。最近の研究で、社会参加の機会が低下すると、フレイルの最初の入り口になりやすいことが分かっています。地域のボランティア活動に積極的に参加したり、趣味のクラブに入会するなど、自分に合った居場所を見つけることが大切です。地域サロンで行っている講演活動もフレイル予防のための社会参加の一つと位置付け、まだ参加できていない地域住民の方に呼び掛ける一方、継続して実施することが重要だと考えています。
―「栄養」の観点からは栄養士との連携も欠かせません。
今城 倉敷店には、2022年4月から管理栄養士が1名配属されました。薬剤師による服薬指導の過程で、栄養面での問題点が見つかった際には管理栄養士に報告し、栄養指導につなげています。指導後は主治医へのフィードバックや検査値のモニタリングで、対象患者様の継続的な支援を行っています。
商品の紹介に加え、栄養士と連携して患者さんに必要な栄養に関する相談も気軽に受付ています。
―地域講演活動の継続に強い意欲が感じられます。
今城 2022年は「フレイルと薬」をテーマに、それらの関連性について理解を促す、より薬学的な内容で、薬局薬剤師としての職能を活かし、さらなるフレイル予防啓発活動を継続していきたいと思っています。また薬局内に、来局者のためのセルフチェックツールとして「体組成計」を設置しました。管理栄養士と協働で、フレイル予防のための具体的なアドバイスが可能ではないかと考えています。処方されたお薬の準備ができるまでの待ち時間の有効活用にもつながれば、と期待しています。
―本日はどうもありがとうございました。
講演活動を通じて今城さんは、倉敷店で取り扱っている栄養関連商品なども紹介し、たとえ処方箋がなくても、栄養相談など、薬局はいつでも気軽に来られる場所、地域住民の健康を支援する場所であることをアピールしています。隣接する基幹病院や在宅支援施設などを対象とした1日約150枚の処方箋応需をこなしながら、地域住民への健康支援活動が続きます。
Activeプラス編集部