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PICKUP.30
街の薬局にも「がん専門の薬剤師」、患者が薬局選ぶ時代に

福岡県 福岡市
大賀薬局 九大病院東門前店

医療の高度化に伴い薬局薬剤師の役割も、従来の調剤だけではなく、高度で専門的な薬学管理が求められる時代になりました。「がん」の専門薬剤師もその一つ。関係医療機関と連携して、高い知識と技術で、がんの薬物療法を協働で実践する専門職種です。
全国でもまだ、認定された薬剤師は少数ですが、福岡県を中心に多店舗展開を図る大賀薬局(本社福岡市)には、2名のがん専門の薬剤師がいます。そのうちのお一人、九大病院東門前店(福岡市東区)に勤務する汐待加織氏(以下、敬称略)に、がん専門の薬剤師の役割などについてお話をうかがいました。

先生の写真

今回は、日本医療薬学会の「地域薬学ケア専門薬剤師(がん)」の認定資格をもつ、汐待 加織氏にお話を伺いました。

―経口抗がん薬が一般化する中、外来でのがん治療が増え、処方箋を薬局に持参する患者も少なくありません。

汐待 私どもの薬局では1カ月平均約2,000枚の処方箋を応需していますが、九州大学病院の門前ということもあり、全体の9割以上が九大病院からの処方箋です。九大病院薬剤部との、いわゆる薬薬連携の一環で、2021年2月から、患者様の治療内容などについて文書で情報共有を受けています。2021年7月時点で約300名のがん患者様が来局されています。

―そもそも汐待さんが、がん専門の薬剤師を目指された動機はなんでしょうか。

汐待 九大病院が門前の薬局を対象に薬薬連携の会を開催し、病院薬剤部のがん専門の薬剤師から、がんの薬物療法時の副作用のマネジメントなどについて指導を受ける機会がありました。がん治療の標準化が進み、レジメン(がんの薬物療法の治療計画)や副作用対策などでも標準化が進められています。自身の勉強不足や知識不足で、自分が勤める薬局に来られる患者様に十分に対応できない、不利益があってはならないとの思いからです。

―現在、がんに関する薬剤師の専門性を認定する団体は、日本医療薬学会と日本臨床腫瘍薬学会の2学会です。

汐待 私の認定は日本医療薬学会の「地域薬学ケア専門薬剤師(がん)」です。2024年度までは過渡的措置として暫定認定ですが、26年の更新までに要件を満たせば正式に認定されます。

―21年2月1日現在、日本医療薬学会の認定数は全国で155名とのことですが、更新までに満たすべき要件としてはどんなことがありますか。

汐待 5年間の研修期間中に病院でのカンファレンス参加やがん領域20症例を含む70件の症例報告、2回以上の学会発表もしくは筆頭著者としての論文1本の発表、集中講義への参加など、多岐にわたります。

日々、患者様と向き合う中で、スタッフ間でも相談しながら良い方向へ持っていけるように連携しています。

―かなり高いハードルですね。そうした要件を満たされようとする中、がん患者と向き合う上で、日ごろから汐待さんが心掛けておられることはなんですか。

汐待 がん患者様の多くは不安を抱えておられます。寄り添い、丁寧に話を聞くことを心掛けています。
当薬局には9名の薬剤師がいますが、できる限り同じスタッフが同じ患者様に対応し、患者様には同じ質問を繰り返さないようにしています。そのための情報共有は、毎月の定例会で綿密に行っています。また、患者様の治療段階を確認するための質問であっても、患者様からは、なぜそんなことを聞くのかと、問い返されることもあります。質問がなぜ必要なのか、その理由を丁寧に説明し、理解していただけるよう努めています。そうした経験の中で、患者様からは「薬剤師」としてではなく、「人」として評価していただき、感謝のお言葉をいただくこともありました。
コロナ禍の影響を受けながらも、がん専門の薬剤師として、九大病院のカンファレンスには毎月参加し、がん治療の最新の取り組みなどについて研鑽を重ねています。

MTG

症例検討会を行っている様子。患者様の困っていることや一人では解決が難しい内容も皆で考えられるようにこのような機会を作るようにしています。

―がん専門の薬剤師として、今後の展望をお聞かせ下さい。

汐待 今後は継続的なマネジメントが必要な薬剤も増えてくるでしょうし、治療が困難になって在宅医療に移行した患者様をどのようにフォローしていくのか、地域の薬局との連携もますます重要になっていくだろうと思います。
また、チェーン薬局である当社としては、がんの薬物療法について、いかに均てん化していくか、ということも課題です。九大前の当薬局が、がんの専門を目指す薬剤師の教育施設になる、あるいは情報発信地となれば、と思っています。

―本日はどうもありがとうございました。

2021年8月から、薬局に関連する法律改正で、がんなどの専門的な薬学管理に関係機関と連携して対応する「専門医療機関連携薬局」の制度がスタートしました。その認定を受けるには、汐待氏のような「地域薬学ケア専門薬剤師(がん)」の存在が不可欠です。専門薬剤師の常駐など、薬局が自店の特色を掲げることで、患者は自分に適した薬局を選ぶことができるようになります。専門医を標榜する医療機関を選択するように、患者自らが「薬局を選ぶ」時代は、すぐそこまで来ています。

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大賀薬局 九大病院東門前店

薬局情報

名称大賀薬局 九大病院東門前店
住所〒812-0054 福岡市東区馬出2-2-4
URLhttps://www.ohga-ph.com/shop/detail/?id=51
電話092-642-1702

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