SPECIAL

厚川 俊明氏

SPECIAL.004
薬局におけるソーシャル・キャピタルの潮流を探る
【第1弾】

厚川薬局(埼玉県川口市)
厚川 俊明氏

地域保健の領域で「ソーシャル・キャピタル」が、注目を集めています。厚生労働省の地域保健対策検討会の報告書では、ソーシャル・キャピタルは「信頼」「社会規範」「ネットワーク」といった協調行動の活発化で、「社会の効率性」を高めることができる社会組織に特徴的な資本と定義され、その本質である「人と人との絆」「人と人との支え合い」は、日本社会を古くから支える重要な基礎と指摘しています。
残念ながらまだ、薬局の現場ではソーシャル・キャピタルの理解と浸透は希薄ですが、そんな「絆」と「支え合い」の精神を「地域コミュニティづくり」という形で具現化し、地域の健康づくりにつなげようとする試みが始まっています。

埼玉県川口市で厚川薬局を経営する厚川俊明氏、兵庫県尼崎市でまごころ薬局を営む福田 惇氏、いずれも薬局に隣接するコミュニティスペースを活用してユニークなイベントを企画するなど、積極的に地域住民の健康づくりに関わっています。

今回のSPECIALでは、両氏から先進的な地域コミュニティづくりの取り組みについてお話をうかがうとともに、第三者の立場から、ソーシャル・キャピタルの概念を通じて「街の薬局がつながりと健康の場となることを夢見て」社会疫学を学ぶため、千葉大学大学院に通う笠原正幸氏に、薬局を拠点とする地域コミュニティが住民に与える意識変化と健康への影響などについて語っていただきました。

厚川氏今回は、厚川薬局 厚川俊明様にお話をお伺い致しました。

薬局中心のコミュニティが地域と住民を「健康」にする

厚川 川口市東川口で開局するのに合わせ、薬局に隣接する築170年の古民家の長屋門をリノベーションし、地域コミュニティの拠点となるイベントルームを設けました。「もっこう館」と名付け、ここを地域とつながる場所として活用したいと考えたのです。この地(戸塚地区)は私の生まれ故郷で、薬局周辺に医療機関は1軒もありません。薬局が主体となった“超”地域密着型のコミュニティをつくりたいという思いが、その背景にありました。

15以上のイベントを定期開催

厚川 イベントは主に社会参加をメインにしたもので、最初に企画したのは「健康ミニイベント」という教室でした。これまで脱水症や糖尿病、介護などをテーマに、「健康おはなし会」という形で定期的に開催してきました。また、ハンドマッサージやヘッドマッサージ、ネイルケアの体験などのほか、「こども薬剤師体験」というイベントを複数回企画しました。さらに、こうした健康イベントのほか、地域系の活動なども積極的に取り入れ、地域住民の健康維持を目的に、地域住民の主体性を生かしたさまざまなイベントを企画してきました。この結果、今では15以上のイベントを定期的に開催するまでになりました。

健康イベントが地域との“つなぎ目”に

地域の活動は、健康イベントに参加された方との縁で始まりました。例えば、地域の歴史に詳しい元図書館長による「地域の歴史を伝える会」、中医学の名誉教授による薬膳教室、精神保健福祉士による心のケアに関するお話会など、健康イベントが地域との“つなぎ目”となり、活動の裾野がどんどんと拡がっていったのです。退職後の引きこもり男性を引き出そうと企画された「コーヒー教室」は、ミニイベントから始まったのですが、その後、「長屋門珈琲愛好会」へと発展、拡充しました。

珈琲珈琲の入れ方に詳しい先生をお呼びして、20回以上開催する程の人気イベントになりました。

これなどは、地域住民の主体性と継続性に成功した一例です。春の花見会、真夏のバーベキュー、秋の芋煮会など季節行事も活況です。こうした小さな会を定期的に開催することで、コミュニティの中で新しいつながりが生まれ、新たなコミュニティの形成につながっていったのです。

当薬局では在宅医療にも注力していますが、患家を訪問すると、「電化製品の使い方が分からない」から「囲碁や将棋の対戦相手がいない」まで、日常のちょっとした困りごとで悩んでいる高齢者が多いことに気付きます。それで生まれたのが「長屋門お助け隊」です。町会と協力して、電気関係に強い人や水回りの修繕ができる人、さらには話し相手が得意な人まで募集しました。集まったお助け隊のスタッフは退職後の技術を活用できるし、地域での役割も生まれる。地域の課題も把握できます。そうしたことが、地域を身体的、精神的、さらには社会的にも「健康」にしていくのです。

「もやもや感」がコミュニティづくりの起点

薬科大学卒業後、私は製薬会社にMRとして勤めていました。その後、大手薬局チェーンに転職し、調剤という臨床の世界に飛び込んだのですが、当時の調剤薬局には何とも言えない「もやもや感」がありました。今までの薬局経営のイメージから発想を変えないと、患者さんも私自身も不幸になるのではないかと思い始めました。 魅力のある職場、たくさん人が集まる場所をつくりたい。そんな思いから、コミュニティデザイナーとして活躍している方などの話を聞き、薬局が主体となったコミュニティデザインのモデルケースをつくりたいと考えるようになり、2015年10月、生まれ故郷に“超”地域密着型の薬局を開設しました。

コミュニティづくりは一歩踏み出すことから

この6年間の経験から薬局のソーシャル・キャピタルの可能性を考えると、行政やNPO、学校などのネットワークと協働すれば、薬局が災害時やパンデミック時の中間支援施設になり得るのではないか、シングルマザーやアフターピル、さらには子どもの貧困といった社会問題の解決の糸口になるのでは、と思っています。 薬局を中心に足元の町会単位でコミュニティをつくれば何かが変わる。コロナ禍でオンラインサロンなどネットワークのつくり方は変化しましたが、気になる人やコミュティを見つけたら、深掘りして参加してみることで、地域に根ざしたコミュニティの姿がきっと見えてくる。薬剤師を忘れ、一歩踏み出すことが大切です。


今回は厚川薬局 厚川 俊明様にお話を伺い致しました。
ご協力頂きありがとうございました。

【次回】
第2弾は、まごころ薬局 武庫之荘店 福田 惇様にお話をお伺い致します。

Activeプラス編集部

厚川氏2

埼玉県川口市
厚川薬局

薬局情報

名称 厚川薬局
住所 〒333-0801 埼玉県川口市東川口6-19-41
電話 048-229-2293

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